労働審判は、使用者と労働者のトラブルを裁判所で解決する専門の手続きです。訴訟と比べて終結までのスピードが早い点が特徴になります。ただし、会社にとっては準備期間が短く、申立てられた際の負担が大きいです。
今回は、労働審判のメリット・デメリットや訴訟との違い、大まかな流れなどについて解説しています。労働審判を申し立てられた企業の経営者や人事労務担当者の方は、ぜひ最後までお読みください。
労働審判は、労使間のトラブルを裁判所で迅速に解決するための専門的な手続きです。2006年より制度がスタートし、現在では広く利用されるようになっています。
労働審判の最大の特徴が、原則として3回以内の期日で終結する点です(労働審判法15条2項)。裁判官の他に労働関係の専門家が参加する点も特徴といえます。
労働審判のメリットとしては、以下の点が挙げられます。
労働審判は訴訟と比べてスピーディーに進行します。
前述の通り、原則として3回以内の期日で終結するとされています(労働審判法15条2項)。実際にほとんどが3回以内、多くが2回以内の期日で終わっています。
2022年のデータでは、平均審理期間は約90日です(参考:地方裁判所における民事第一審訴訟事件の概況|裁判所)。期日の回数に制限がなく1年以上かかるケースも多い訴訟と比べると、スピード感のある手続きといえます。
解決まで時間を要すると、本来の業務が圧迫されるなど、会社にとってマイナスの影響が大きいです。終結までの時間が短い点は、労働審判の大きなメリットといえます。
通常の訴訟は裁判官だけで判断されますが、労働審判では2名の「労働審判員」が参加する点が特徴です。
労働トラブルについて知識・経験を有する人が、使用者側・労働者側それぞれ1名ずつ任命されます。現場の実情を知る労働審判員が参加することで、当事者にとっても納得感が高まりやすい制度となっています。
訴訟と比べて柔軟な解決が可能な点もポイントです。
労働審判では、訴訟のように明確に決着をつけるよりも、双方の意向に基づいて事案に応じた適切な結論を出そうと試みられます。
たとえば、解雇の有効性が争いとなった訴訟では、最終的には判決で解雇が無効か判断され、無効なら復職や未払い賃金の支払いが命じられます。同じ紛争でも、労働審判の場合には「退職したうえで解決金を支払う」との結論になるケースが多いです。
前述のデータによると、話し合いがまとまり調停成立となるケースが約7割にものぼっています。話し合いで柔軟な解決がしやすい点も、労働審判のメリットです。
メリットだけ見ると良い制度に思えるものの、労働審判にはデメリットも存在します。以下では、一般的なデメリットを解説します。会社に生じる問題については、こちらの記事をお読みください。
参考記事:労働審判が会社に与えるダメージとは?軽くする方法も解説
労働審判は複雑な事案には適していません。原則として3回以内の期日で終結させるためです。
たとえば、書証の量が膨大なケースや、多数の証人から証言を得る必要があるケースなどでは、3回以内に終えるのは難しいです。
労働審判は迅速に進められる反面、細かい事実認定が求められるケースには適していないといえます。
労働審判では最終的な解決に至らないケースもあります。
話し合いをしても調停成立とならないときには、判決に似た「労働審判」が下されます。とはいえ、「労働審判」に納得できない当事者は異議申し立てが可能です。異議申し立てがなされると通常の訴訟に移行します。
したがって、結局は訴訟になってしまい、最終的な解決まで時間を要する可能性も存在します。
労働審判の対象になるのは、個々の労働者と事業主との間に生じた労働関係の紛争です。特に実際に多いのは、解雇や残業代に関するトラブルです。
「労働者個人VS会社」の争いを扱うため、「労働組合VS会社」のトラブルは対象になりません。また、ハラスメントの加害者本人と被害者との紛争は、「個人VS個人」であるため対象外です。
労働組合と会社との団体交渉については、以下を参照してください。
参考記事:団体交渉とは?申し入れられた際の流れや注意点を会社側弁護士が解説
労働審判 | 訴訟 | |
---|---|---|
審理期間 | 短い | 長い |
公開の有無 | 非公開 | 公開 |
対象事件 | 「個人VS会社」のみ | 制限なし |
判断者 | 裁判官+労働審判員 | 裁判官のみ |
労働審判と訴訟との大きな違いは、終結までのスピードです。2022年における労働審判の平均審理期間が約90日であるのに対して、労働関係訴訟では17.2月にも及びます(参考:地方裁判所における民事第一審訴訟事件の概況|裁判所)。
他の違いとしては、公開の有無が挙げられます。訴訟は法廷が公開されるのに対して、労働審判は非公開です。当事者以外に見られたくないときは、労働審判の方が適しています。
また、労働審判の対象になるのは「個人VS会社」の争いに限られますが、訴訟では制限はありません。
労働審判は裁判官以外に労働審判員も参加するのに対して、訴訟は裁判官のみで判断される点も違いです。
労働審判は、裁判所に申立書や証拠を提出して始まります。
理論上は会社からの申立ても可能ですが、ほとんどのケースで申立てをするのは労働者です。いきなり申立てがあるのではなく、事前に話し合いの機会がもたれるのが通常です。
申立てがあると、原則として40日以内に第1回期日が指定され、申立書とともに呼出状が会社に送られます。
会社は、提出期限までに主張をまとめた答弁書を提出しなければなりません。提出期限は第1回期日の1週間〜10日前程度に指定されます。期限までは長くても1ヵ月程度しかなく、会社にとってはタイトなスケジュールになります。
労働審判の答弁書については、ぜひ次の記事をお読みください。
参考記事:労働審判の答弁書の書き方|提出期限に間に合わないとどうなる?
第1回期日では、双方から事情を聞いたうえで、裁判官(労働審判官)と労働審判員による評議が行われます。評議が終わると、当事者が交互に呼び出されて調停による解決が試みられます。第1回で調停が成立するケースも多いです。
解決の方向性は第1回期日で決まります。労働審判では、第1回期日までが非常に重要です。
第2回期日以降は、基本的には合意に向けた話し合いが行われます。3回を終えても話し合いがまとまらなければ、「労働審判」(判決のようなもの)が告知されます。
労働審判の終わり方は、主に以下の3つです。
審判内容に不服がある当事者がいるときは、異議申し立てにより通常訴訟に移行します。労働審判に適さない事案であるとして、労働審判法24条により終了した場合も同様です。
ここまで、労働審判の制度概要やメリット・デメリット、訴訟との違いなどについて解説してきました。
労働審判の最大の特徴は、進行が早い点です。第1回期日までに方向性が決まってしまうため、申立てを知ったらすぐに準備に取り掛からなければなりません。会社にとっては負担が大きいですが、今すぐ行動を開始しましょう。
労働審判を申立てられてお悩みの方は、弁護士法人ダーウィン法律事務所までご相談ください。
当事務所は、会社の経営者や人事担当者の皆様の味方です。ご依頼いただいた際には、答弁書作成を始めとする事前準備や期日への同行など、全面的にサポートいたします。
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