労働災害(労災)とは、業務によって労働者が被ったケガ・病気・死亡です。種類としては大きく分けて「業務災害」と「通勤災害」があります。
労災が発生した際には、労災保険から給付がなされます。ただし、会社も法的な責任を問われる可能性があります。労災には真摯に対応しなければなりません。
今回は、労災の意味や種類、会社が負う責任などについて解説しています。労災が発生した、あるいは発生するリスクが高い会社の経営者や人事労務担当者の皆様には知っておいて欲しい内容ですので、ぜひ最後までお読みください。
労働災害(労災)は、業務や通勤が原因となって労働者に生じたケガ・病気・死亡をいいます。
労災の例は以下の通りです。
労災といえば工場や現場仕事における事故をイメージされる方が多いでしょう。他にも、業務が原因となった脳・心臓疾患や精神疾患も労災に該当するケースがあります。業務中だけでなく、通勤の際に発生した事故も労災です。
労災が多い業種としては、製造業、建設業、陸上貨物運送事業などが挙げられますが、サービス業でも発生します。事故のパターンとしては、転倒、墜落・転落、交通事故、はさまれ・巻き込まれなどが多いです(参考:令和5年における労働災害発生状況について|厚生労働省)。
業務災害は、業務が原因で生じたケガ・病気・死亡です。例としては以下が挙げられます。
業務災害に該当するか否かは「業務遂行性」と「業務起因性」から判断されます。
業務遂行性は、労働者が事業主の支配・管理下にあれば認められます。業務時間中だけでなく、休憩中や出張中でも構いません。
業務起因性とは、業務に伴う危険が現実になったことをいいます。業務遂行性があるときは、業務起因性も認められるケースがほとんどです。ただし、プライベートのトラブル相手が職場に乗り込んできて殴られたケースなど、業務と関係ないケガ等については業務起因性が認められません。
突発的な事故の場合には比較的判断しやすいですが、難しいのが業務を原因とする病気です。長時間労働による脳・心臓疾患や、ストレスによる精神疾患も業務災害の認定対象に含まれます。発症前の労働時間や心理的負荷などから判断されますが、争いになりやすいです。
通勤災害とは、通勤中に生じたケガ・病気・死亡を指します。通勤中は会社の管理下にはありませんが、職場に向かうために不可欠な行為であるため補償の対象とされています。
通勤災害の具体例は以下の通りです。
問題になるのは寄り道をしたケースです。通勤経路から離れた後は、通勤中とはみなされません。ただし、スーパーでの買い物、病院への通院などのための最小限の寄り道であれば、通常の経路に戻った後は通勤中とされます。
労災保険(労働者災害補償保険)は、業務災害や通勤災害によるケガ・病気・死亡を補償するための制度です。本来は会社が負担すべき補償についても、一定程度は労災保険から給付されます。
労働者を雇っている全ての会社は、原則として労災保険に加入しなければなりません。保険料は全額会社負担です。労働者保護のために不可欠な保険であり、万が一未加入の場合にはペナルティが用意されています。
加入するだけでなく、事故が発生した際には申請をサポートする必要があります。もちろん、決して労災隠しをしてはなりません。また、労災で休業中の従業員を解雇するのは、原則として法律上禁止されています(労働基準法19条1項)。
労災保険の適用に雇用形態は関係ありません。パートやアルバイトであっても適用対象です。たとえ労働時間が短くても、アルバイトを一人でも雇えば労災保険の加入義務があります。
労災保険の主な給付は以下の通りです。業務災害においては「○○補償給付」、通勤災害においては「○○給付」という名称になりますが、内容としては変わりません。
給付の名称 | 概要 |
---|---|
療養(補償)給付 | 治療そのもの・治療費 |
休業(補償)給付 | 労災の影響で仕事ができないときの賃金補償 |
傷病(補償)給付 | 療養開始から1年6ヶ月経過しても治癒せず一定の障害が残っているときの給付 |
障害(補償)給付 | 治癒(症状固定)後に後遺障害が残ったときの給付 |
介護(補償)給付 | 介護が必要になった際の給付 |
遺族(補償)給付 | 死亡した場合に遺族に支払われる給付 |
葬祭料・葬祭給付 | 死亡時の葬儀費用 |
このように労災保険には様々な給付が用意されています。ただし、すべての損害をカバーしているわけではありません。
労災が発生すると、安全配慮義務違反により民事上の損害賠償責任を負う可能性があります。
安全配慮義務とは、会社が従業員の生命・身体の安全を確保できるよう必要な配慮をすべき義務です(労働契約法5条)。ケースによって具体的な内容は異なります。作業時の危険防止はもちろん、従業員の健康状態の管理もしなければなりません。
安全配慮義務違反が認められると、従業員は会社に損害賠償を請求できます。たしかに労災保険による給付もありますが、すべての損害が補償されるわけではありません。たとえば、休業補償は一部に限られ、精神的苦痛に対する慰謝料はそもそも対象外です。
労災保険でカバーされない範囲については、会社が支払いを強いられるリスクがあります。
刑事責任を問われる可能性もあります。
まず、労働安全衛生法違反が想定されます。たとえば、以下の事情があれば労働安全衛生法違反です。
これらの違反には刑事罰が規定されています。
他にも、刑法上の業務上過失致死傷罪に問われるおそれがあります(刑法211条)。
行政責任が生じるケースも存在します。労働基準監督署からの是正勧告・改善指導や、機械設備の使用停止、作業停止といった処分がくだされる可能性があります。
ここまで、労働災害の意味や種類、会社が問われる責任について解説してきました。
業務中・通勤中に従業員がケガ等をした場合には労災です。労災保険から給付はありますが、補償対象外の部分について会社に請求される可能性もあります。会社としては、労災を軽く見ず真摯に対応しなければなりません。
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