業務災害とは、業務を原因とするケガや病気をいいます。
通勤災害と並んで、労働災害(労災)の種類のひとつです。
業務災害が認定されるのは、ケガや病気の原因が業務にあるといえるケースに限られます。
プライベートが原因であるときなどは業務災害とはされません。
業務災害が発生した際には、会社として申請に協力し、従業員に寄り添った対応をする必要があります。
労災隠しや従業員の解雇をしてはなりません。
今回は、業務災害について、労働災害・通勤災害との違い、認定基準、会社が知っておくべきポイントなどを解説しています。
業務災害が発生した会社の経営者や人事労務担当者の方は、ぜひ最後までお読みください。
労災に関する基礎知識は、以下の記事で解説しています。
業務災害とは、業務を原因として生じたケガ・病気・障害・死亡のことです(労働者災害補償保険法7条1項1号)。
労働者が業務によってケガを負った・病気になった・障害が残った・死亡したときに認定され、労災保険から給付がなされます。
業務災害の例としては、以下が挙げられます。
・工場の機械で指を切断した
・高所での作業中に落下し死亡した
・長時間労働が原因で脳出血を起こし障害が残った
・上司からパワハラを受けうつ病になった
多くの方は、業務中の事故によりケガを負ったケースをイメージされるかもしれません。
実際には事故によるケガだけでなく、業務上の継続的な負担により生じた脳・心臓疾患や精神疾患も業務災害に該当し得ます。
業務災害に似た言葉に「労働災害」「通勤災害」があります。
労働災害はより大きな括りであり、労働災害のうち業務が原因であるものを業務災害、通勤が原因であるものを通勤災害と呼びます。
言い換えると、労働災害の種類として業務災害や通勤災害があるという関係です。
業務災害と通勤災害とで、労働者が受けられる給付内容に大きな違いはありません。
ただし給付の名称が、業務災害では「○○補償給付」、通勤災害では「○○給付」と異なります。
【労働災害・業務災害・通勤災害の関係】
労働災害:総称 | 業務災害 | 業務を原因とするもの |
通勤災害 | 通勤を原因とするもの |
業務に関係する事故によりケガを負ったり死亡したりしたケースでは、「業務遂行性」と「業務起因性」がいずれも認められると業務災害とされます。
順に詳しく見ていきましょう。
業務遂行性とは、事業主の支配下にある状態であったことを意味します。
事務所や工場などで作業をしている最中だけでなく、事業場内で休憩している際の事故、業務上の外出・出張中の事故であっても業務遂行性は認められます。
休憩中であっても、会社の外に出ていた場合には支配下にあるとはいえず、業務遂行性は認められません。
出張については、移動時間や宿泊先で過ごしている時間であっても業務遂行性が認められます。
飲み会や懇親会は業務遂行性の判断が問題になりやすいです。
同僚との私的な飲み会中の事故では認められませんが、強制参加であれば認められます。
業務起因性とは、業務とケガ・死亡との間に因果関係が認められることをいいます。
通常であれば、作業中の事故については業務起因性が認められます。
ただし、プライベートのトラブル相手が乗り込んできて殴られた、労働者が業務中に飲酒をして事故に至ったといったケースでは業務起因性が認められません。
地震などの自然災害が原因の場合にも否定されますが、災害の被害を受けやすい仕事であれば業務起因性が認められる可能性があります。
職場での休憩中の事故については、基本的に業務起因性は認められません。
たとえば昼休みに職場で運動をしてケガをしたようなケースです。
もっとも、事務所に置いてあるポットの故障によりヤケドをしたなど、職場の設備に問題があった場合には結論が変わってきます。
出張中の事故については、仕事中でなくても業務起因性が認められやすいです。
移動中に交通事故に遭った、宿泊していたホテルの階段から転落したといった場合にも業務災害となります。
ただし、仕事と一切関係のない私的な観光などは対象に含まれません。
明確な原因といえる事故がないときには、判断が難しくなります。
仕事だけでなく、日常の生活習慣や年齢・体質などの影響が考えられるためです。
まず、業務内容から生じやすい「職業病」については、否定する事情がなければ業務災害と認定されます。
たとえば、作業の負担による腰痛、化学物質の吸引により生じる病気などです。
長時間労働や負担のかかる業務から生じる脳出血、心筋梗塞などの脳・心臓疾患については、以下の基準のいずれかに該当すれば業務災害とされます。
労働時間だけでなく、質的に過酷な労働を強いられたかどうかも考慮して判断されます。
うつ病などの精神疾患については、以下の基準をすべて満たした場合に業務災害と認定されます。
脳・心臓疾患や精神疾患については判断が難しいケースも多いです。
会社だけで安易に判断しないようにしてください。
業務災害が発生したら、従業員は労災保険から給付を受け取れます。
会社は「事業主証明」をするなど、申請に協力しなければなりません。会社が申請を代行する場合も多いです。
会社に労働基準監督署への報告義務が生じるケースもあります。
労災隠しは決してしないようにしてください。
労働基準監督署については、以下の記事で解説しています。
参考記事:労働基準監督署(労基署)への対応のポイントを弁護士が解説
労災保険から給付がおりても、別途従業員から会社に対して損害賠償請求がなされるケースもあります。
労災保険は、生じた損害のすべてを補償してくれるわけではないためです。
休業補償の一部や慰謝料など、カバーされない損害については会社が責任を負う可能性があります。
従業員や遺族と激しい争いになるのを避けるには、当初から真摯に対応し、不信感を抱かせないのが重要です。
原則として、業務災害によって休業中の従業員を解雇してはなりません(労働基準法19条1項)。
打切補償を支払う場合など例外はあるものの、基本的に解雇はできないとお考えください。
業務災害を理由に休業している従業員を解雇しても無効です。
争われると復職や未払い賃金の支払いを強いられるだけでなく、会社の社会的なイメージも大きく低下するでしょう。
働けない状態であるからといって解雇はしないでください。
勝手に業務災害でないと判断して解雇することも避けましょう。
ここまで、業務災害の意味や認定基準、注意点などを解説してきました。
業務災害とは、業務を原因とするケガや病気です。
作業中の事故によるケガだけでなく、業務負担により生じた脳・心臓・精神疾患も対象になります。
発生した際には、労災保険の申請に協力するなど、誠実に対応しなければなりません。
業務災害についてお悩みの方は、弁護士法人ダーウィン法律事務所までご相談ください。
当事務所は、会社の経営者や人事担当者の皆様の味方です。
発生した際の対応はもちろん、従業員との交渉・訴訟まで徹底的にサポートいたします。
「業務災害に該当するかわからない」「従業員とトラブルになっている」などとお困りの方は、まずはお気軽に弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。