配転・出向・転籍といった人事異動は、会社運営のうえでは必要です。しかし、従業員から反発を受けるケースが少なくありません。
配転は、社内における業務内容や勤務地の変更です。出向や転籍では働く会社が変わります。いずれについても、法律上の要件を満たしているかを確認して実行しなければなりません。
今回は、配転・出向・転籍の意味や要件について解説しています。人事異動に関してお悩みの会社経営者や人事担当者の方は、ぜひ最後までお読みください。
【配転・出向・転籍の違い】
配転 | 出向 | 転籍 | |
---|---|---|---|
勤務する会社 | 変わらない | 変わる | 変わる |
雇用契約 | 終了しない | 終了しない | 終了する |
配転とは、職務内容や勤務地の変更をいいます。ある程度長期間にわたって変更されるものを指し、短期間の出張は含まれません。
配転には、勤務地が変わらずに所属部署が変わる「配置転換」と、勤務地が変わる「転勤」があります。いずれにしても、働く会社は変わりません。社内で完結している点が、出向や転籍との違いです。
出向とは、会社に籍を残したまま、他社で業務をすることです。「在籍出向」とも呼ばれます。
出向しても労働契約関係は続くものの、他社の従業員となって働く点が特徴です。他社の指揮命令に従って働く点で配転と異なり、出向元との雇用関係が続く点では転籍と異なります。
転籍とは、元の会社との雇用関係を終了させ、他の会社と契約して働くことです。「移籍出向」とも呼ばれます。
転籍は、他社で働くだけでなく、籍も移り元の会社との契約関係が終了する点がポイントです。配転や出向とは異なり、個々の労働者の同意が不可欠になります。
配転は社内で完結するため、出向や転籍と比べるとハードルが低いです。とはいえ、自由にはできません。
配転命令権が存在していることを前提にして、職種や勤務地の限定がないことや、権利の濫用に該当しないことが要求されます。
会社が従業員に配転を命じるには根拠が必要です。通常は就業規則に「業務の都合により配転を命じることがある」といった条項があります。配転命令権が存在するかどうかは、あまり問題になりません。
労働契約において職種や勤務地を限定している場合には、配転命令は制限されます。
たとえば、医師・看護師・大学教員など、専門的な職種については他の業務に就かせるのは難しいです。契約上、勤務場所・地域が限定されているときも同様です。ただし、本人の同意があれば配転させられます。
企業が配転命令権を有しているとしても、濫用してはなりません(労働契約法3条5項)。権利の濫用にあたるかどうかについては、判例上以下の観点が示されています(東亜ペイント事件・最高裁昭和61年7月14日判決)。
近年はワークライフバランスが重視されており、単身赴任や育児についても配慮が求められます(育児介護休業法26条)。これまで以上に、配転命令が権利濫用に該当しないかに注意が必要です。
出向は働く会社が変わるため、従業員にとって影響が大きいです。配転に比べてハードルが高くなります。具体的な根拠規定が存在しているうえに、権利濫用にあたらないことが要求されます。
出向を命じるには、就業規則や労働協約に根拠規定が必要です。しかも、働く会社が変わるのは重大な変更であるため、包括的な規定だけでは足りません。出向期間、出向中の地位、賃金その他処遇について労働者の利益に配慮した詳細な規定が必要と考えられます(新日本製鐵事件・最高裁平成15年4月18日判決)。
いくら根拠規定があって出向命令権が存在していても、権利を濫用してはなりません。権利の濫用に該当するかは、以下の観点から判断されます(労働契約法14条)。
出向の場合、労働条件の引き下げ等の不利益が配転と比べて生じやすいです。従業員に著しい不利益が生じないかを、より慎重に検討する必要があります。
転籍は、元の会社との雇用関係を終わらせるものであり、労働者に与える影響が非常に大きいです。したがって、個別に従業員の同意を得る必要があります。一方的に転籍を命じてはなりません。
ここまで、配転・出向・転籍の意味や違い、法的な有効要件について解説してきました。
配転は社内だけで完結しますが、出向や転籍では働く会社が変わります。ハードルの高さはそれぞれ異なりますが、要件を満たしているかを検討したうえで行いましょう。トラブルが生じたときは、すぐに専門家に相談する必要があります。
配転・出向・転籍に関してお悩みの方は、弁護士法人ダーウィン法律事務所までご相談ください。
当事務所は、会社の経営者や人事担当者の皆様の味方です。ご相談いただければ法的に有効かを判断するとともに、既にトラブルになっているときは迅速に対応いたします。
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