「(元)従業員からだいぶ前の未払い残業代を請求された」という場合には、時効にかかっている可能性があります。
未払い残業代の消滅時効期間は3年です。以前は2年でしたが、法改正に伴い2020年4月から延長されました。毎月の給料日から3年を経過するごとに、請求権が消滅していきます。
ただし、内容証明郵便で請求された場合や訴訟を起こされた場合など、3年を経過しても時効が完成していないケースがあります。支払い義務の有無を左右するため、請求を受けた際には時効に関する知識が不可欠です。
今回は、未払い残業代の時効期間や、経過後でも支払いが必要になるケースについて解説しています。(元)従業員からの未払い残業代請求にお悩みの会社関係者や人事労務担当者の方は、ぜひ最後までお読みください。
残業代についての全般的な知識は以下の記事で解説しています。
参考記事:未払い残業代を請求されたら?リスクや対処法を弁護士が解説
未払いの残業代があるとき、従業員は会社に対して残業代請求権を行使できます。ただし、「消滅時効」という制度により、所定の期間を経過すれば権利が消滅して請求ができなくなります。消滅時効が定められているのは、権利があるのに行使しない者は法律で保護するに値せず、時間の経過により権利の有無を証明するのも難しくなるためです。
未払い残業代の消滅時効期間は3年です。かつては2年とされていましたが、法改正に伴い2020年(令和2年)4月以降に発生した請求権については3年に延長されました。期間の延長により、より長い期間の残業代を請求されるようになり、未払いにしている企業の負担は増加しています。
なお、民法の一般原則では2020年4月の法改正により消滅時効期間が5年とされ(民法166条1項1号)、残業代を含む賃金請求権についても5年と規定されました(労働基準法115条)。附則によりひとまず3年とされているものの、「当分の間」の措置に過ぎません(143条3項)。他の請求権と同様に、今後5年に延長される可能性も考えられます。
時効のカウントをスタートする時点を「起算点」と呼びます。未払い残業代の起算点は「給料日の翌日」です。請求自体は給料日当日から可能ですが、民法上のルールにより初日はカウントしません(民法140条本文)。給料日が毎月25日の場合には、毎月26日が起算点になります。
2020年4月以降に発生した残業代請求権については、時効期間が満了となるのは丸3年が経過した日です。たとえば、2022年4月25日に支払う予定だった残業代の消滅時効は、2025年4月25日の終了をもって完成します。
「3年後の給料日が過ぎると、1ヶ月分の未払い残業代が時効にかかる」と覚えておきましょう。
まずは「時効の完成猶予」がなされた場合です。時効の完成猶予とは、時効期間のカウントがストップする制度です。カウントが一時的に止まるだけで、リセットされるわけではありません。
時効の完成が猶予される代表例は、内容証明郵便の送付です。従業員が会社に内容証明郵便を送って残業代請求の意思を示すと、「催告」として時効の進行が6ヶ月間ストップします(民法150条1項)。時効期間の経過が迫っているときに、ひとまず内容証明郵便を送って時効にかかるのを防ごうとする場合があります。
なお、6ヶ月の間に再度催告をしても、猶予期間の延長はなされません(民法150条2項)。時効の完成を防ぐために訴訟の提起などの「裁判上の請求」をすれば、それが終了するまでさらに時効の完成が猶予されます(民法147条1項1号)。
法律上は他にも、協議を行う旨の合意(民法151条)など、時効の完成猶予の効果を有する行為が定められています。
時効の完成が猶予されても、カウントが止まるだけで、リセットされるわけではありません。期間がリセットされてゼロになるのが「時効の更新」です。
時効が更新される例としては、裁判での判決などにより権利が確定したケースが挙げられます(民法147条2項)。請求権を認める判決が出て確定すると時効期間はリセットされます。
会社が特に注意して欲しいのが「権利の承認」です。会社が未払い残業代があることを認めるような言動をとると、権利の承認に該当して時効期間がリセットされるおそれがあります(民法152条1項)。後から時効を主張できなくなりますので、安易に認めないように気をつけましょう。
時効期間の経過による権利消滅の効果を発生させるには、会社が「時効の援用」という行為をしなければなりません。難しく聞こえますが、「時効にかかっていて権利がなくなっており、支払い義務がない」ことを会社が主張すれば援用ができます。
しかし、時効の援用が権利濫用に該当するとして、会社の主張が認められないケースもあります。たとえば、従業員を脅すなどして残業代請求を会社が意図的に妨害したような場合です。
時効の援用が権利濫用とされるのは例外的ではありますが、注意してください。
ここまで、未払い残業代の時効期間や、経過後でも支払う必要があるケースなどを解説してきました。
残業代の消滅時効期間は3年です。給料日から3年経過すると、1ヶ月分ずつ請求権が消滅します。もっとも、完成猶予や更新によって支払い義務が残っているケースもあります。特に権利の承認には注意しましょう。
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