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採用・内定・ 試用期間

採用・内定・試用期間の意味や企業が注意すべき法的問題点

「内定者に問題が発覚した」「試用期間中の従業員を本採用したくない」とお悩みでしょうか?
内定は労働契約に該当すると考えられています。いったん内定を出すと、合理的な理由がない限り取り消しはできません
また、入社後に業務への適性を見極めるために設けられた試用期間において、解雇や本採用拒否は制限されます。簡単には認められないため、可否を慎重に検討しなければなりません。
今回は、採用・内定・試用期間について、意味や想定される法的問題について解説しています。企業の経営者や人事担当者の方は、ぜひ最後までお読みください。

採用の自由には限界がある


弁護士
荒川 香遥
企業には採用の自由が認められています。もっとも、差別は許されません。
まずは、採用の自由の内容や限界について解説します。

企業は採用にあたって幅広い自由を有しています。経済活動の一環として契約締結の自由を有する以上、労働契約を結ぶとき、すなわち採用の際にも自由が認められます。
採用の自由の具体的な内容は以下の通りです。

  • 雇い入れ人数決定の自由
  • 募集方法の自由
  • 選択の自由(誰をどのような基準で採用するかを決める)
  • 契約締結の自由
  • 調査の自由(応募者について調べる)

ただし、これらの自由は制限なく認められるわけではありません
たとえば、以下の制約が存在します。

調査の自由にも限界があります。応募者について採用判断に必要な情報を集められるとはいっても、不当な差別やプライバシー侵害につながってはなりません。出生地、家族、思想、信条など、本人の能力や適性に無関係な事項について質問・調査するのは避けましょう。
企業には採用の自由があるとはいえ、濫用しないようにしてください。

内定(採用内定)とは?


弁護士
荒川 香遥
採用すると決定した際には、内定(採用内定)を出すのが通常の流れです。一般的に、内定は労働契約にあたると考えられます。労働契約である以上、簡単には取り消しが認められません。また、内定以前に出す「内々定」については、法的性質がケースによって異なります。
ここでは、内定の法的性質、取り消しが認められるケース、内々定との違いについて見ていきましょう。

解約権を留保した労働契約

企業が従業員を採用する際には、採用を決定し通知をした段階から、実際に入社して働き始めるまでにタイムラグがあるのが通常です。採用決定を通知すると内定(採用内定)と呼ばれる状態になります。
内定(採用内定)の法的性質は、一般的に「始期付き解約権留保付き労働契約」と解釈されています(大日本印刷事件・最高裁昭和54年7月20日判決)。契約だとされるのは、求人への応募が労働者による「契約の申込み」、企業からの採用内定通知が「契約の承諾」と捉えられるためです。
ただし、

  • 始期付き(開始時期(例:新卒採用であれば4月1日)が決まっている)
  • 解約権留保付き(通知書に記載された内定取り消し事由に該当すれば会社が解約できる)

との条件がついた契約です。
厳密にいえば、個々の事情に応じて内定の法的性質を検討しなければなりません。とはいえ、他に契約締結に向けた意思表示が予定されていなければ、「始期付き解約権留保付き労働契約」に該当すると考えられます。

内定取り消しが認められるケース

内定が「解約権留保付き労働契約」にあたれば、内定の取り消しは留保した解約権の行使に該当します。通常の労働契約を企業から一方的に解約する、すなわち解雇をする際には、法律上のハードルが高いです(解雇権濫用法理、労働契約法16条)。内定も労働契約に該当する以上、内定の取り消し(解約)には似たような規制が課されます。
判例では「内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが・・・客観的に合理的と認められ社会通念上相当」といえる理由がある場合に限り、内定取り消しが認められるとされました(大日本印刷事件・最高裁昭和54年7月20日判決)。
具体的には、たとえば以下の理由があれば内定取り消しが認められると考えられます。

  • 成績不良で卒業できなかった
  • 健康状態の悪化により仕事ができない
  • 経歴につき重大な虚偽申告が判明した
  • 犯罪により逮捕・収監された

内定取り消しは、通常の解雇よりハードルが低いとされます。とはいえ、内定通知書に記載された理由に該当しても、内定を取り消せるとは限りません
内定取り消しが違法と判断されると、従業員としての地位を主張されて賃金支払いが必要となったり、不法行為に基づく損害賠償を請求されたりするリスクがあります。解雇と同様に、内定取り消しも慎重に検討しなければなりません。
なお、解雇については、以下の記事を参照してください。
参考記事:解雇とは?種類やできるケースを会社側弁護士が解説

内定と内々定の違い

特に新卒採用の場合、内定に至る前段階として「内々定」を出すことがあります。内々定の法律上の扱いはケースバイケースです。
たとえば、口頭で伝えられただけで他社への就職も自由であり、正式な内定手続きがなされていない場合には、労働契約の成立は認められないでしょう。労働契約が成立していなければ、取り消しに解雇のような厳しい規制は課されません。ただし、不誠実な態度をとったなどの事情があれば、不法行為として損害賠償を請求されるリスクは存在します。
また、採用を確信させる言動があり他社への就職活動が制約されていれば、労働契約の成立が認められる可能性もあります。このときは内定と同様の扱いです。
「内々定」とひとくちに言っても実態は様々であるため、個々の事情に応じた検討が必要になります。

試用期間とは?


弁護士
荒川 香遥
採用後、適性を見極めるために試用期間が設けられている場合は多いでしょう。入社している以上、内定段階よりも会社と労働者の関係は深いです。試用期間後の本採用拒否ができるかは、通常の解雇に近いレベルで厳格に判断されます。

適性を見極めるための期間

試用期間は、入社後に従業員の能力や適性を見極めるための期間です。試用期間中の働きぶりによって、終了時に本採用するか否かを会社が判断します。
試用期間の法的性質は、一般的に「解約権留保付き労働契約」とされています(三菱樹脂事件・最高裁昭和48年12月12日判決)。入社している以上労働契約は成立しており、従業員として不適格である際に解約できるとの条件がついていると考えられるためです。

本採用拒否ができるケース

労働契約である以上、本採用の拒否は解雇と類似の法的規制に服します。すなわち、「客観的に合理的な理由」があり「社会通念上相当である」と認められなければなりません(労働契約法16条)。試用期間中に、採用当初知ることができないような事実が判明し、雇用しておくのが適当でないと認められるケースに限り、本採用拒否ができます。
通常の解雇よりは会社の裁量が認められ法的なハードルが下がりますが、安易な本採用拒否は避けてください。一般に想定される程度の能力不足、多少の遅刻・欠勤といった理由では認められません。申告していたスキルや資格が全くなかった、業務命令を一切聞かない、無断欠勤を何度も繰り返すなどの事情があれば、有効と認められやすいです。
本採用拒否は、通常の解雇と似ています。違法とされれば賃金や損害賠償の支払いを強いられるリスクがあるため、慎重に判断するようにしましょう。

期間の長さや延長の可否

試用期間の長さに法律上の決まりはありません。一般的には3ヶ月とするケースが多く、1ヶ月から6ヶ月の範囲内である場合がほとんどです。1年を超えるなど、あまりに長い期間とすれば従業員の地位を不安定にします。無効とされるおそれがあるため避けてください。
元々予定していた期間を過ぎても従業員の適性を判断できない場合もあるでしょう。しかし、延長されれば労働者にとって不利益になります。就業規則に延長の可能性や理由、期間などが明示されていない限り、基本的にはしないでください。ただし、本採用拒否にすべきと考えられるケースにおいて追加でチャンスを与えるなど、労働者の利益になる理由であれば延長が適切な場合もあります。

採用・内定・試用期間の法的問題は弁護士にご相談ください


弁護士
荒川 香遥
採用・内定・試用期間に関する法律問題でお悩みであれば、弁護士にご相談ください。

ここまで、採用の自由、内定の法的性質や取り消しできるケース、試用期間の意義や本採用拒否の可否などを解説してきました。
採用内定や試用期間の段階で、法的には労働契約が成立していると判断されます。そのため、内定取り消しや本採用拒否は解雇に近い法的規制に服します。十分な理由がなければできないので注意しましょう。

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