団体交渉とは、労働条件などについて労働者が組合を通じて使用者とする話し合いです。団体交渉権は労働者にとって重要な権利であり、会社としても尊重する必要があります。
労働組合から団体交渉を申し入れられた際には、適切に対処しないと組合側の行動がエスカレートするおそれがあります。会社側も流れや注意点を知っておかなければなりません。
今回は、団体交渉とは何かを説明したうえで、流れや注意点を会社の立場から解説しています。団体交渉を申し入れられた企業の経営者や人事・労務担当者の方は、ぜひ最後までお読みください。
団体交渉とは、労働条件などについて、労働者(従業員)が労働組合を通じて使用者(会社)とする話し合いです。
労働者が団体交渉をする権利は、憲法上保障されています。
団体交渉権が認められているのは、労働者が使用者と対等な立場で交渉できるようにするためです。
労働者は雇われの身であり、使用者と比べて弱い立場にあります。単独で使用者と対等な交渉をするのは難しいため、労働組合を結成したうえで、集団として使用者と交渉する権利が憲法や労働組合法で認められているのです。
団体交渉権は労働者にとって重要な権利です。会社としても蔑ろにしてはなりません。
団体交渉は、労働組合による申し入れから始まります。申し入れをする労働組合のタイプは、主に「企業別組合」と「合同労組(ユニオン)」の2つです。
企業別組合は、企業内で組織されている組合です。わが国では存在感が大きく、労働組合といえば企業別組合をイメージする方も多いでしょう。現在でも、大企業では企業別組合が団体交渉の主体になっている場合が多いです。
他方で、近年は合同労組(ユニオン)が団体交渉を申し入れるケースも目立ちます。合同労組とは、所属する企業や雇用形態に関係なく、個人で加入できる労働組合です。社内に組合がない中小企業では、従業員が合同労組に駆け込み、団体交渉を通じてトラブルを解決しようとする事例がよくあります。
この記事では、主として、近年存在感を高めている合同労組から交渉を申し入れられたケースを念頭に解説しています。合同労組について詳しくは、以下の記事を参照してください。
参考記事:合同労組(ユニオン)とは?団体交渉を申し入れられたら?
団体交渉の対象になる議題は様々ですが、大きく「義務的団交事項」と「任意的団交事項」に分けられます。
義務的団交事項とは、会社が交渉に応じるよう義務づけられている事項です。一般的には、以下のうち使用者の立場で決定できるものを指すとされています。
義務的団交事項について団体交渉に応じないと、後述する不当労働行為に該当します。必ず交渉のテーブルにつかなければなりません。
義務的団交事項にあたらなくても、会社の判断で交渉に応じることは可能です。会社が応じる限りで団体交渉の議題になる事項を任意的団交事項と呼びます。
会社ではどうしようもない政策的な問題や、専ら経営判断に属する事項などが該当します。任意的団交事項について交渉に応じるかは会社の自由ですが、一度応じると先例になる点には注意してください。
団体交渉は、主として労働者のために認められているものです。とはいえ会社にとっても、従業員と個別に話し合うことなく、問題をまとめて解決できるメリットがあります。訴訟に至る前の解決のチャンスになる点もメリットといえます。社内の問題を明らかにする機会として前向きにとらえることも可能です。
とはいえ、団体交渉には時間や手間がかかります。交渉の過程で不当労働行為をするリスクも大きいです。場合によっては、関係する従業員だけでなく、会社全体に影響が生じるおそれもあります。
以下の内容は大まかな流れを把握するためのものです。詳しくは以下の記事で解説していますので、あわせてご参照ください。
参考記事:団体交渉の進め方|事前準備から当日までの流れを会社側弁護士が解説
団体交渉は、組合から「団体交渉申入書」「組合加入通知書」「要求書」といったタイトルの書面が送られてきて始まるのが一般的です。
義務的団交事項について交渉の申し入れがあったときには、原則として拒否できません。以下の理由があっても拒否しないようにしてください。
基本的には、一度も交渉していない段階での拒否は不当労働行為にあたるとお考えください。
団体交渉の拒否について詳しくは、以下の記事で解説しています。
参考記事:団体交渉は拒否できる?正当な理由が認められるケースも解説
申入書に日時や場所が記載されていても、組合にとって都合のいい条件で交渉するのは避けるべきです。事前に調整さえすれば、申入書の内容に従う義務はなく、条件に応じないことのみで直ちに不当労働行為になる訳ではありません。
ポイントは以下の通りです。
事前準備は大変重要です。
交渉事項に応じて事実調査をしたうえで、要求に対する方針を決定しておきましょう。裁判になった際の見通しを踏まえて、会社として妥協できる範囲を話し合っておきます。想定問答集の作成も効果的です。
交渉当日は、組合側に何をされるかわかりません。感情的にならず冷静に対応するのが重要です。
特に以下のポイントに注意してください。
1回の交渉で合意できるケースは少ないです。交渉が終わったら、社内で検討・準備をして、次の交渉に備えるようにしてください。
交渉で合意できれば書面を作成して終了となりますが、決裂すると以下の事態が想定されます。
交渉が決裂すれば争いは長引きます。とはいえ、決裂を恐れるあまり必要以上に譲歩すると、かえって組合が増長してしまいます。不当な要求は受け入れないようにしてください。
団体交渉でやってはいけないことに関しては、以下の記事で詳しく解説しています。より深く知りたい方はあわせてお読みください。
参考記事:団体交渉でやってはいけない対応|やってしまったらどうなるかも解説
交渉当日に考えがいってしまいがちですが、事前の対応の方が実は重要です。
特に次の点には気をつけてください。
組合のペースで進められないように、事前調整や準備には力をいれましょう。申し入れがなされたらすぐに対応してください。
不当労働行為とは、会社が労働組合や労働者にしてはならない行為として、法律上定められている一定の類型の行為です(労働組合法7条各号)。
類型としては以下が挙げられます。
団体交渉拒否については、最初から無視する場合だけでなく、形式的に交渉のテーブルにつくだけで誠実に交渉しない場合も不当労働行為と判断されます。
不当労働行為をすると、組合から労働委員会に救済申し立てがなされるなど、争いが長引いてしまいます。会社側が何の問題もないと考えてした言動について、組合側から問題視されるケースも多いので注意してください。
不当労働行為については、以下の記事で詳しく解説しています。
参考記事:不当労働行為とは?類型や具体例・会社側のリスクをわかりやすく解説
組合を恐れるあまり、要求をすべて受け入れてしまう会社もあります。しかし、法律上は要求を受け入れる義務まではありません。
会社に課せられた義務は、交渉のテーブルについて、中身のある議論をすることです。要求を安易に飲むと、組合が増長して要求事項が拡大していきます。不当な要求まで受け入れないようにしてください。
ここまで、団体交渉の基礎知識や流れ・注意点について解説してきました。
組合から交渉を申し入れられたら、基本的には交渉のテーブルにつかなければなりません。入念に事前準備をしたうえで、当日は相手のペースに飲まれないようにするのが重要です。
団体交渉を申し入れられた際には、弁護士法人ダーウィン法律事務所までご相談ください。
当事務所は、会社の経営者や人事担当者の皆様の味方です。皆様に寄り添って、交渉の準備段階から、様々な点につきサポートいたします。交渉当日の同席も可能です。
「団体交渉を申し入れられたが、どう対応すればいいかわからない」とお悩みの方は、お気軽に弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。
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