労働組合から団体交渉を申し入れられた時、拒否してしまいたいとお感じになることもあろうかと思います。
しかし、法律上、団体交渉は原則として拒否できません。正当な理由があれば拒否できるのですが、認められるケースは非常に少ないです。
正当な理由がないのに団体交渉を拒否すれば、罰則や損害賠償のリスクがあります。企業外の合同労組(ユニオン)が相手であっても、交渉には応じるようにしましょう。
今回は、団体交渉を拒否できるかについて、具体例を交えながら解説しています。労働組合から団体交渉を申し入れられた企業の経営者や人事担当者の方は、ぜひ最後までお読みください。
まずは、団体交渉を拒否してはいけない理由や、拒否するリスクを解説します。
団体交渉の拒否は労働組合法7条2号に反しており、原則として違法です。労働者が団結して使用者と対等に交渉できるようにするため、法律上は団体交渉権が重要な権利と考えられています。
労働組合法7条各号に挙げられている行為は「不当労働行為」と呼ばれます。団体交渉の拒否は、典型的な不当労働行為です。
団体交渉を拒否すると、使用者には以下のリスクがあります。
正当な理由がないのに団体交渉を拒み続けると、法律上のペナルティが与えられるケースがあります。
団体交渉を拒否すると、組合側が労働委員会に救済申立てを行う可能性が高いです。認められると「団体交渉をせよ」との救済命令が出されます。確定した救済命令を無視すると「50万円以下の過料」というペナルティが会社に与えられます(労働組合法32条)。
救済命令に不服があれば、裁判所への取消訴訟の提起が可能です。ただし、裁判所が労働委員会の判断を支持したのに会社が従わないと「1年以下の禁錮」「100万円以下の罰金」「その両方」のいずれかが科されます(労働組合法28条)。
団体交渉を拒否すると、民事上の損害賠償を請求される場合もあります。加えて、元々のトラブルの原因によっては、未払い残業代や解雇無効に伴う未払い賃金などを別途請求されるケースもあるでしょう。
組合側の申し出を無視し続けると、結果的に争いが深刻化し、多額の賠償を強いられてしまう可能性があるのです。
法的なリスクだけでなく、組合が強硬手段に出る事態も想定されます。
たとえば、職場付近でのビラ配りや街宣活動が考えられます。取引先に対して会社の誹謗中傷をするかもしれません。組合の活動は法的に手厚く保護されているため、ひとたび行動に出られてしまうと簡単には止められないのが実情です。
組合が強硬手段に出れば、結果的に企業としての社会的信用が下がってしまうおそれがあります。
団体交渉拒否が不当労働行為として違法になるケースをご紹介します。
団体交渉の申し入れがあったにもかかわらず、無視したり、「交渉には応じない」との回答をしたりすると、大半のケースで違法と判断されることになります。
会社が主張しがちな団体交渉を拒否する理由として、以下の内容がありますが、いずれも正当な理由とは認められません。
・従業員が既に退職している
・申し入れをしたのが合同労組(ユニオン)である
・裁判で争っている最中である
・組合員名簿を提出しない
交渉を拒否する正当な理由が認められるケースは限られています。特に一度も交渉をしていない段階であれば、まず違法になると考えた方がよいでしょう。
はなから交渉に応じない場合だけでなく、誠実に交渉しない場合も拒否にあたり、不当労働行為に該当するとされています。
カール・ツァイス事件では、以下の通り判示されました(東京地裁平成元年9月22日判決)。
「使用者には、誠実に団体交渉にあたる義務があり、したがって、使用者は、自己の主張を相手方が理解し、納得することを目指して、誠意をもって団体交渉に当たらなければならず、労働組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を提示するなどし、また、結局において労働組合の要求に対して譲歩することができないとしても、その論拠を示して反論するなどの努力をすべき義務がある」
使用者は単に交渉の場に出るだけでなく、資料を提示するなどして回答の具体的根拠を示し、中身のある交渉をしなければなりません。
始めから合意する意思がないと示す、一般論を振りかざすだけで具体的な説明はしない、明らかに不合理な理由を突きつけるといった態度をとれば、誠実交渉義務違反として不当労働行為に該当します。
ただし、組合の要求をすべて受け入れたり、譲歩したりする義務まではありません。
正当な理由が認められ、団体交渉を拒否できるケースとしては以下が挙げられます。
そもそも相手が労働組合ではないなど、交渉権限を有しない場合には拒否できます。
ただし、申し入れをしたのが企業外の合同労組(ユニオン)であるときに、「企業内組合ではない」との理由では拒否できません。相手の交渉権限についての安易な判断は危険ですので、あらかじめ弁護士に相談して確認しましょう。
交渉において組合側に犯罪をはじめとする不適切な行為があれば、拒否できる場合があります。
たとえば、会社側の出席者に暴行・脅迫をする、会場に入れないほど多数の組合員が押しかけたといった状況があれば、まともな交渉はできません。交渉に応じないとしても不当労働行為にはならないと考えられます。
中身のある話し合いを重ねた末に合意できなかったのであれば、交渉を打ち切れます。
上述の通り、会社は誠実に交渉する義務はありますが、組合の要求を受け入れる義務まではありません。具体的に根拠を示して協議を繰り返したにもかかわらず合意が見通せない状況であれば、打ち切りもやむなしです。
ここまで、団体交渉の拒否について解説してきました。
団体交渉は原則として拒否できません。拒否すれば不当労働行為になり法的なリスクがあるため、交渉のテーブルについたうえで、誠実に交渉に応じるようにしましょう。譲歩して要求を受け入れる義務まではありません。中身のある話し合いをするのが重要です。
団体交渉を申し入れられた際には、弁護士法人ダーウィン法律事務所までご相談ください。
弁護士に相談すれば、交渉を拒否してよいかがわかります。弁護士は交渉への同席もでき、法的リスクを避けたうえで落としどころを見すえた話し合いが可能です。
当事務所の弁護士は、会社の経営者や人事担当者の皆様の心情に寄り添って対応いたします。「団体交渉に慣れていない」「自分たちだけで組合と対峙するのは不安」といった方は、お気軽に弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。
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