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労働対策コラム

うつ病は労災認定される?認定基準や会社の対応を弁護士が解説

従業員がうつ病をはじめとする精神疾患に罹患すると、労災が認定される可能性があります。
認定されるかを分ける大きなポイントは「業務による強い心理的負荷があったか」です。

業務が原因でうつ病になった場合、会社としては事実調査や労災申請に協力しなければなりません。
損害賠償を請求されるケースもあります。業務ができないからといって安易に解雇しないようにしてください。

今回は、うつ病の労災認定基準や裁判例、会社がとるべき対応を解説しています。
従業員がうつ病などの精神疾患に罹患してお悩みの会社経営者や人事労務担当者の方は、ぜひ最後までお読みください。

メンタルヘルス不調を抱えた従業員への対応全般については、以下の記事で解説しています。

参考記事:メンタルヘルス不調の従業員への対処法・防止策を会社側弁護士が解説

うつ病が労災になるかの認定基準


弁護士
岡本 裕明
従業員のメンタルヘルス不調に悩まされる会社は増えています。「労災は事故によるもの」とのイメージがあるかもしれませんが、うつ病についても業務が原因で発症したのであれば労災が認定されます。うつ病をはじめとする精神疾患が労災に認定されるのは、以下の3つの要件をすべて満たしたケースです。

参考:精神障害の労災認定|厚生労働省

対象となる精神疾患に罹患している

まずは前提として、対象となる精神障害を発病していることが条件になります。

うつ病をはじめとする「気分障害」や急性ストレス反応など、業務により生じると考えられる精神疾患が対象になっています。
認知症や頭部外傷による障害、アルコールや薬物による障害は対象外です。

業務による強い心理的負担が存在した

次に、発病前概ね6ヶ月の間に起きた業務による出来事について、強い心理的負荷が生じたと認められることが要件になります(参考:精神障害の労災認定|厚生労働省 p.3〜)。

まず、「特別な出来事」があれば強い心理的負荷が認められます。「特別な出来事」の例は以下の通りです。

  • 生死にかかわる業務上の病気・ケガ
  • 強姦や本人の意思を抑圧してなされたわいせつ行為などのセクハラ
  • 発病前1ヶ月の概ね160時間を超えるような時間外労働

「特別な出来事」がないときは、起きた出来事ごとに心理的負荷を「強」「中」「弱」で判断します。
たとえば以下の出来事が「強」とされます。

  • 治療を要する暴行を受けるなど悪質なパワハラやいじめ
  • 退職の強要
  • 発病直前の連続2ヶ月で概ね月120時間以上、連続3ヶ月で概ね月100時間以上の時間外労働

個々の出来事では心理的負荷が強いといえなくても、複数重なると認定されるケースもあります。

(参考記事)
セクハラ・パワハラとは?会社が負う責任やとるべき対策を解説
退職勧奨が違法になるケース|仕事を与えないなど強引な方法はNG!

業務以外の要因によるものではない

精神疾患を発病していても、業務以外が原因の場合があります。
業務以外が要因と判断できるケースでは、労災は認定されません

たとえば以下のような出来事があるときは、業務以外が精神疾患の原因でないかを慎重に検討する必要があります(参考:精神障害の労災認定|厚生労働省 p.9)。

  • 離婚や別居
  • 近親者の死亡
  • 天災や犯罪による被害

また、もともと精神疾患を抱えていた、アルコール依存であったといった場合には、業務でなく労働者個人の側に原因があったと判断される可能性があります。

うつ病と労災に関する裁判例


弁護士
岡本 裕明
事故があったケースと比べて、うつ病の原因が業務にあるかは簡単には判断できません。そのため、裁判で争われるケースもたびたび見られます。

うつ病が労災に該当するか争われた裁判例として、トヨタ自動車事件をご紹介します。

トヨタ自動車事件判決(名古屋高裁令和3年9月16日)
【事案の概要】
自動車会社に勤務していた従業員が、業務負担に加え上司からのパワハラも受けうつ病を発症し、自殺した。遺族が労働基準監督署に労災を申請したものの認定されなかったため提訴した。1審では業務起因性が否定された。
【結論】
業務起因性があるとして労災の不支給処分が取り消された。
【ポイント】
はじめての海外業務を担当するなどの業務負担に加え、上司から大声で叱責されるなどのパワハラを継続して受けたことを全体として評価し、心理的負荷は強いと判断されました。
時間外労働はほとんどなかったにもかかわらず、継続的なパワハラによって労災が認定された点がポイントです。

うつ病で労災を申請する従業員がいるときの注意点


弁護士
岡本 裕明
うつ病による労災を申請しようとする従業員がいるときは、会社として事実を確認し、申請に協力してください。不当解雇をしてはなりません。
以下で会社側の注意点をまとめました。

事実を調査する

うつ病の原因が業務にあると従業員が主張しているときは、会社として真摯に対応する必要があります。
実際に労災と認定されるかは別にして、事実調査をしなければなりません

たとえば、長時間労働についてはタイムカードやPCの記録、パワハラについてはヒアリングなどを通じて事実を確認しましょう。

申請に協力する

調査の結果、業務との因果関係が認定できるときには、労災申請に協力してください。
会社には労災申請に協力する義務があります。

業務による負荷が強くない、プライベートに原因があるなど、業務が要因とは考えられないケースもあるでしょう。
その場合には、労災の事業主証明はしないでください。労災が認められると会社も損害賠償責任を負うリスクがあります。
申請の妨害は許されませんが、会社としての意見を労働基準監督署に説明し、適正な判断がなされるように行動する必要があります。

ただし、裁判所でも判断が分かれるなど微妙なケースは多いです。
安易に会社だけで労災でないと判断せず、弁護士にご相談ください

参考記事:労働災害(労災)とは?種類や会社が負う責任を解説

損害賠償請求を受けるおそれ

うつ病が労災に該当すると判断された場合、会社が安全配慮義務違反等を理由として損害賠償請求を受けるおそれがあります。

労災からの給付金は、すべての損害を補償してくれるわけではありません。
たとえば、休業補償は一部しか支払われず、精神的損害に対する慰謝料は対象外です。
労災で補償されなかった損害について、会社に請求がなされる可能性があります。

不当解雇しない

業務が原因でうつ病になり休業しているときは、基本的に解雇はできません労働基準法19条1項)。
仕事ができない状態であるからといって、解雇しないようにしてください。

不当解雇すると、後から無効とされて結果的に会社に負担が生じるだけでなく、社会的イメージも下がります。
安易な解雇は避けましょう。

参考記事:うつ病の従業員を解雇できる?パターン別に流れを解説

従業員がうつ病になったときは弁護士にご相談ください


弁護士
岡本 裕明
従業員がうつ病になったとき、会社には慎重な対応が求められます。社内で判断するのは容易ではありません。お気軽に弁護士にご相談ください。

ここまで、うつ病が労災になるかについて、認定基準や判例を紹介し、注意点も解説してきました。

基準があるとはいえ、個々のケースで労災に該当するかを判断するのは難しいです。
会社が責任を追及されるリスクもあるため、安易に行動しないようにしましょう。

従業員の精神疾患にお悩みの方は、弁護士法人ダーウィン法律事務所までご相談ください

当事務所は、会社の経営者や人事担当者の皆様の味方です。労災に認定されそうかを判断し、適切な対処法をアドバイスいたします。
既にトラブルになっている場合も迅速に対応いたします。

「うつ病が労災になるかわからない」「うつ病になった従業員から損害賠償を請求された」などとお悩みの会社関係者の方は、お気軽に弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。

岡本裕明
記事の監修者
岡本裕明
弁護士法人 ダーウィン法律事務所 代表弁護士
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