従業員をすぐに解雇したければ、平均賃金30日分の「解雇予告手当」を支払わなければなりません。例外的なケースを除いて支払いが必要であり、怠るとトラブルに発展するリスクが高いです。
今回は、解雇予告手当について、支払い時の注意点や計算方法などを解説しています。従業員を解雇しようと考えている会社の経営者や人事・労務担当者の方は、ぜひ最後までお読みください。
解雇の予告については、労働基準法20条に規定されています。
条文の通り、従業員を解雇する際には、30日前には予告しなければなりません。解雇に予告が必要とされているのは、再就職までの準備時間を与えるためです。
予告をしないときには、30日分の平均賃金を支払う必要があります。これが解雇予告手当です。当座の生活費をまかない、労働者を保護するために存在しています。
なお、即時解雇ではないものの、解雇日まで30日よりも少ない日数しか残っていないときには、足りない日数分だけ支払えばよいとされています。たとえば、解雇日の25日前に予告したときは、5日分の平均賃金を支払うだけで構いません。
解雇予告手当は、解雇される大半の従業員が対象になります。
正社員だけでなく、基本的には、契約社員、パート、アルバイトなど、雇用形態を問わず支払いの対象です。懲戒解雇をする場合ですら、後述する除外認定を受けない限り支払わなければなりません。
解雇の通告は、理論上は口頭でも構いません。しかし、後に争いになった際の証拠とするために、書面でするようにしてください。直接渡すのが難しいときは、内容証明郵便やメールによる通知も検討しましょう。
また、従業員が要求したときには、解雇理由証明書を発行する必要があります(労働基準法22条2項)。証明書には、労働者が請求した事項についてだけ記入してください(労働基準法22条3項)。
解雇予告手当の支払日は、最終の給与と同時にしているケースが多いものの、正確には解雇を言い渡した日が望ましいです。
まずは、天災などやむを得ない理由で事業の継続が困難になった場合です(労働基準法20条1項ただし書)。たとえば、地震や台風により工場が壊滅的な打撃を受けた、火災により事業所が焼け落ちたといったケースが考えられます。
ただし、会社が独断で決められるわけではありません。労働基準監督署の認定を受ける必要があります(労働基準法20条3項・19条2項)。
労働者の責任に帰すべき理由に基づいて解雇するときにも、解雇予告手当は不要です(労働基準法20条1項ただし書)。懲戒解雇に該当するようなケースです。
ただし、勝手に手当をなしにはできず、天災の場合と同様に労働基準監督署の除外認定を得なければなりません(労働基準法20条3項・19条2項)。
以下の労働者については、解雇予告に関する規定は適用されません(労働基準法21条)。
・日雇いの労働者(1ヵ月を超えた場合は除く)
・2ヵ月以内の期間を定めて雇用された者(引き続き雇用された場合を除く)
・季節的業務に4ヵ月以内の期間を定めて雇用された者(引き続き雇用された場合を除く)
・試用期間中の者(入社から14日を超えた場合は除く)
これらの短期で雇っている労働者については、解雇の予告や手当が不要になります。
まずは、解雇日直前の給与締め日から数えて過去3ヵ月分の給与総額を計算します。
たとえば月末締めの会社で4月15日が解雇通知日であれば、1月から3月分の税引き前の給与を足し合わせます。総額に各種手当や残業代は含めますが、ボーナスは除いてください。
次に、過去3ヵ月分の暦上の日数をカウントします。土日祝日も含んだ日数です。
たとえば平年の1月から3月であれば「31日+28日+31日=90日」となります。
3ヵ月のトータルの賃金を日数で割り、1日あたりの平均賃金を算出します。平均賃金に解雇予告手当の支給対象となる日数(即時解雇であれば30日)を掛け合わせれば、金額を求められます。
なお、平均賃金が「3ヵ月の給与総額÷3ヵ月の労働日数×0.6」を下回っているときには、「3ヵ月の給与総額÷3ヵ月の労働日数×0.6」を計算に用いてください。
解雇予告手当の支払いを怠るとトラブルになるリスクが高いです。
まず考えられるのは、未払いとなっている手当の支払い請求です。他に、そもそも不当解雇だとして解雇無効を主張される可能性もあります。労働審判や訴訟の場に争いが持ち込まれると、会社にとっては大きな負担です。
判例では、解雇予告手当を支払っていないときは、即時解雇としては効力が生じないものの、使用者が即時解雇にこだわっていなければ、通知後30日の経過か通知後の手当支払いにより解雇の効力は生じるとされています(細谷服装事件、最高裁昭和35年3月11日)。
とはいえ、そもそも解雇の要件を満たしていないケースも多いです。解雇の際には、要件を満たしているか確認したうえで、解雇予告の手続きも確実に踏むなど、慎重に進めてください。
解雇予告手当の不払いには罰則も予定されています。刑罰の内容は「6ヵ月以上の懲役または30万円以下の罰金」です(労働基準法119条)。
解雇予告に関する違反は、刑罰が科されるほど重大であると強く認識しておきましょう。
ここまで、解雇予告手当について、支払い時の注意点、支払わなくてもよいケース、計算方法などを解説してきました。
例外的な場合を除き、即時解雇する際には解雇予告手当を支払わなければなりません。トラブルを生まないためにも、正確に計算して、確実に支給するようにしましょう。
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