従業員に退職勧奨をして応じてくれた場合、会社都合退職となります。
「従業員に問題があって辞めるのだから自己都合だろう」「会社都合にすると助成金を受け取れなくなって困る」とお考えになる方もいるかもしれません。しかし、使用者から働きかけて辞めてもらう以上、会社都合による退職です。
話し合いの際に自己都合として扱おうとしたり、離職票に自己都合であると記載したりすると、トラブルになるおそれがあります。事実を歪めないようにしてください。
今回は、退職勧奨による退職が会社都合扱いになる点や、会社都合退職となるメリット・デメリットなどを解説しています。退職勧奨による退職の扱いを知りたい会社関係者や人事・労務担当者の方は、ぜひ最後までお読みください。
退職勧奨は企業の事情で行うものであり、応じたときには会社都合退職となります。
そもそも退職勧奨は、会社が従業員に対して退職するよう勧める行為です。会社が「能力や勤務態度に問題のある従業員には辞めてもらいたい」「人員削減の必要性がある」といった理由で行います。
退職勧奨は会社が望んでする行為であり、従業員の側から申し出ているわけではありません。たとえ従業員に非があるとしても、扱いとしては会社都合になります。
会社都合退職とは、その名の通り会社の事情で従業員がする退職です。例としては以下が挙げられます。
・倒産
・解雇(重責解雇を除く)
・退職勧奨
・ハラスメントを受けた
自己都合退職は、労働者側の事情でする退職です。代表例は次の通りです。
・病気、ケガ
・結婚、妊娠、出産
・自発的な転職
会社都合か自己都合かで大きく異なるのが失業保険の給付の扱いです。他にも、退職金や従業員の再就職などに影響を与える可能性があります。両者の違いを詳しく見ていきましょう。
雇用保険上の失業給付の基本手当は、給付期間や内容が退職理由によって大きく異なります。
会社都合の場合には、待機期間の7日が経過すればすぐに受給が可能です。対して自己都合のときは、「特定理由離職者」に該当しない限り、7日に加えて原則2ヶ月は受給できません。
支給される日数も、会社都合だと90〜330日であるのに対し、自己都合では90〜150日と短くなります。
失業保険給付の側面からみて、従業員にとっては会社都合扱いの方が格段に有利です。
退職金の金額に影響が出る場合もあります。企業の退職金規程において、会社都合か自己都合かで差をつけているケースです。
会社都合退職の方が支給額が高くなっていれば、従業員としては当然会社都合とするよう希望します。支払いを抑えるために無理やり自己都合扱いとしないでください。
むしろ、退職に応じてもらいやすくするために退職金は上乗せするケースが多いです。退職勧奨における退職金や解決金について詳しくは、以下の記事をご覧ください。
参考記事:退職勧奨における退職金・解決金の相場|上乗せする?なしでいい?
金銭面では、従業員にとっては会社都合の方が有利です。反面、従業員の転職・再就職においては不利に働く場合もあります。
通常は、優秀な人材であれば企業として辞めてもらう理由はありません。にもかかわらず会社都合で退職したとなると、応募先の企業から「何らかの問題があるのではないか」と考えられる可能性があります。面接時に理由を聞かれる場合もあるでしょう。
一概には言えませんが、会社都合とされると従業員の転職活動にマイナスに作用するケースがあります。
従業員は、金銭面で有利な会社都合退職とするのを望むと考えられます。その点を逆手にとれば、説得をスムーズに進めることも可能です。
従業員が退職に応じない理由のひとつとして、経済的な不安があります。突然仕事を辞めるよう告げられても、新たな職場が見つかるまでには時間がかかり、再就職まで給与が入ってきません。「辞めてもいい」との気持ちがあるとしても、自分や家族の生活を考えると、簡単には決断できないでしょう。
そこで企業として「会社都合扱いになるから失業給付や退職金が増える」と背中を押せば、従業員の不安が多少なりとも解消されるはずです。ある意味当然のことを言っているだけですが、会社が歩み寄っている姿勢を示す効果があります。
反対に「あなたに問題があるから自己都合にする」との姿勢を示したり、離職票に自己都合である旨の記載をしたりしてはなりません。退職理由をめぐってトラブルに発展するリスクが大きいです。
会社都合とする旨を説明すれば、トラブルを防止でき、退職に応じてもらいやすくなります。
企業にとって会社都合退職になるデメリットは、一部の助成金を受け取れなくなる可能性がある点です。
雇用関係の助成金の多くは、「6か月以内に行っていない」など、会社都合退職がないことが支給条件になっています。
たとえば以下の助成金です。
・キャリアアップ助成金
・中途採用等支援助成金
・特定求職者雇用開発助成金
・トライアル雇用助成金
・地域雇用開発助成金
退職勧奨により退職すると、これらの助成金を受け取れなくなってしまいます。自社が受け取っている、あるいは受け取ろうとしている助成金の中に該当するものがないかを事前に確認しておきましょう。
助成金を受け取るために事実を歪めて自己都合と扱えば不正受給です。決してしないでください。
ここまで、退職勧奨による退職が会社都合か自己都合か、両者の違いやメリット・デメリットなどについて解説してきました。
会社都合とした方が、失業保険や退職金において従業員に有利です。金銭面のメリットを伝えれば、説得に応じてもらいやすくなります。事実として企業側のお願いにより辞めてもらう以上、会社都合と扱うようにしましょう。
退職勧奨についてお困りであれば、弁護士法人ダーウィン法律事務所までご相談ください。
当事務所は、会社の経営者や人事担当者の皆様の味方です。ご相談いただければ、いかなる手続きを踏むか、どう説得すべきかなどをアドバイスいたします。
「問題ある従業員に辞めてもらいたい」とお悩みの会社関係者の方は、お気軽に弁護士法人ダーウィン法律事務所までお問い合わせください。
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